この6月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と初共演し、喝采を浴びた指揮者の山田和樹さん(46)が、世界最高峰の楽団との濃密な時間を振り返られた。平常心を飛翔の糧とした。「いつもと同じ、出たとこ勝負。オケの変化にワクワクしました」
「第一級のソリストが100人集まり、それぞれが好き勝手に弾いている。それが一体となったとき。うねるんです。音楽も、見た目も、互いにリンクして。うまくいけばいくほど、とてつもなくうねり出す」
「僕が考えていたのは、どうやって空気をハーモニーの中に含ませていくか。そんなアプローチは、みんな経験したことがなかったみたい。珍しいことやろうとしてくるな、よし、試してみるか。そんな感じで向き合ってくれたみたいです」
2011年に振った佐渡裕さんが熱く興奮を語っていたのとは対照的に、山田さんの語り口はふんわりとした空気をまとっていた。
「フランスものをやったらいいんじゃないの、と背中を押してくれたのは、10年から第一コンサートマスターを務める親友の樫本大進。何といっても、ぼくと楽団の両方を熟知している唯一無二の人ですから」とイタリアもの(レスピーギ「ローマの噴水」)・武満の「ウオーター・ドリーミング」・サンサーンスの交響曲第三番オルガン付きを選んだ
演奏中、東京混声合唱団音楽監督の前々任者で、自身もベルリン・フィルを振った経験のある故・岩城宏之さんから聞いた逸話を思い出したという。
芸術監督時代のカラヤンが、「指揮はドライブ(運転)じゃなくキャリー(運ぶこと)だ」とよく言っていたのだと。それが、初めて腹に落ちた。
「自分がコントロールするんじゃないんだな、と。ある意味、オケって車じゃなく、お馬さんのようなものかもしれない。馬自身に強烈な意思がある。それを尊重しつつ、乗っかるわけです。行き先は示すけど、強制するわけじゃない。完全に対等で、100人全員と常に一対一。指揮者の合図なんかなくてもこのオケは大丈夫っていう、この感覚こそが、カラヤンに培われた伝統だったと思い知りました」
山田和樹さん、ベルリン・フィルとの初共演終え、これから楽しみたのしみ・・♪